中古オフィスビルの価値再生へ。女性・ファミリー層を取り込むビジネスホテル「トーセイホテル ココネ上野」。
首都圏を中心に不動産事業を行うトーセイ株式会社は2018年12月1日、「トーセイホテル ココネ上野」をオープンする。
1号店の「トーセイホテル ココネ神田」に続き、「トーセイホテル ココネ」ブランド第2弾となる同ホテルは、2005年築の中古オフィスビルをコンバージョンし、地上11階建て・126の客室を擁するビジネスホテルと生まれ変わった。東京メトロ日比谷線「上野駅」から徒歩1分という恵まれた立地で、訪日外国人や女性、ファミリー層など幅広い利用客を取り込むという。運営は、同社子会社のトーセイ・ホテル・マネジメント株式会社が行う。
同ホテルのオープンにあたり、今回HOTELIER編集部はメディア向け内覧会に参加した。
トーセイホテル ココネ上野について
施設コンセプト
同ブランド名であるCOCONE(ココネ)には、「心地よい、こころの音(ここね)が響く宿」の意味が込められている。神田同様、“和モダン”を基調とした空間づくりをすることで、建物内で日本の春夏秋冬を味わいながら快適な空間を提供している。
客室・設備
エントランスは、オフィス仕様の天井を抜き2階フロントに繋がる階段を設けたことで、開放的な空間を存分に味わうことができるつくり。フロントの正面にはウェルカムドリンクのほか、そば殻や低反発など多彩な貸し出し枕を用意。宿泊者は無料で利用できる。
客室フロアは3階~11階、うち10階は女性優先フロアとなっている。ビジネスホテルは男性の利用比率の高いと言われている中、こうした細やかな配慮は女性にとって嬉しいだろう。
驚いたのは、同ホテルの客室タイプの多さ。126の客室数に対し24タイプもあるという。これも中古オフィスをホテルにコンバージョンした、建物の構造が関係している。シングル、ダブル、ツインのほか、和モダンや、ビジネスホテルには珍しい2段ベッドのファミリールームを用意し、様々なニーズに応えられるルーム展開をしている。部屋の広さはタイプによって異なるが、12㎡~21㎡前後だ。
また11階には屋上テラスを用意。スカイツリーを正面に眺めながら、テーブルやカウンター席でゆったり寛げるのも大きなメリットになるだろう。
プラン
現在、同ホテルでは【訪日外国人】【ファミリー層】【女性観光客】と宿泊ターゲットを置き、3つのプランを用意している。
【訪日外国人】向けには、上野の老舗和菓子と抹茶を提供し和モダンルームに宿泊する「和のおもてなしプラン」、【ファミリー層】向けには、部屋でプラネタリウムを鑑賞できる「HOMESTAR Classicプラン」、【女性観光客】向けには、旅の思い出づくりにチェキの貸し出しを行う「思い出づくりサポートプラン」を限定発売。オープン後も宿泊者のニーズを調査・研究しつづけ、今後も様々なプランを打ち出していく。
レストラン
2階フロント奥には、同社初の自社運営レストラン「Bistro COCONE」を展開。朝食メニューは70品目のビュッフェ形式、ランチはプライべートブランド含め6種のカレーバイキングを提供する。ランチは宿泊者はもちろん、宿泊者以外の利用も可能のため、近隣に勤めるビジネスマンや地元の方など幅広い客層を取り込めるだろう。
代表インタビュー
同ホテルのオープンにあたり、トーセイホテル神田株式会社の代表取締役社長兼トーセイ・ホテル・マネジメント株式会社の取締役本部長の檜山元一氏に、より詳しくお話を伺った。
コンセプトである“和モダン”の中で特にこだわった部分とは?
1号店の神田と同じく、建物全体で春夏秋冬を表現することにこだわっています。フロアによってテーマを分け、部屋の内装やアクセントクロスのみならず、各フロアに漂うアロマやアートなども春夏秋冬でこしらえ、何度泊まっていただいても、泊まるたびに違う趣を感じられるような工夫をしています。とはいえ、全面に“和モダン”を強調するのではなく、「鮫小紋」や「麻の葉」といった日本古来の模様を取り入れながら、さり気なく和を表現しているところも特徴です。
客室に揃えているアメニティに関しても、ホテルコンセプトとマッチしていることから、DHCさんの「WAGOKOROシリーズ」を導入しています。またバスタオルも、ラグジュアリーホテルに近い触り心地のものを厳選。こうしたこだわりは全て、ビジネスホテルの概念を打ち破りたいという想いがあるからです。お客様に快適に過ごしていただくため、私たちがお客様目線になり、様々な角度から研究しています。
神田での経験が特に活かされた部分はどこですか?
ユーザー目線で見た時の動線ですね。ユーザーは私たちが想定できない動きをするので、そこを非常に考えた上で、家具の設計や椅子の座り心地、テーブルの高さ、ハンガーの位置などを考えました。例えば、2段ベッドのお部屋の机には2つの椅子があるのですが、下のベッド2つに座ると目線が揃うことで4人での団らんができる設計にしています。TVもビジネスホテルでは珍しく43インチサイズを採用し、VODも一般映画やアニメなどは無料で見ることができます。
お部屋ごとに家具も異なるのですか?
基本的には一つの家具メーカーにお願いし、外観や素材は同様に作ってもらっていますが、24パターンの部屋タイプがあるので、部屋によって家具のサイズを変えなければいけないという問題がありました。デスク一つとっても、こっちには入るけど、こっちには入らないって。それにより24パターン分の家具を作るのは一番苦労した点です。出来上がってから入れ直しや修正することもありましたね。
初めて自社運営のレストランを入れた理由とは?
テナントさんを入れた場合に比べ、自社で運営する場合は、自由に自分たちでスペースを使えますしメニュー変更も行えます。お客様のニーズをダイレクトに汲み取ることができ、かつ迅速に対応できることから、上野で初めて自社レストランの運営をスタートすることになりました。これにより、様々な宿泊プランを考えることができます。
現在、四半期に一度のペースでインバウンドやファミリー向けに、プロのお料理の先生を招いた和菓子教室プランを検討しています。宿泊者限定で最大20名程度の人数で行うことで、レストランスペースを有効活用できるメリットがあります。
レストランで提供する料理に関しては、食材の仕入れをして簡単な調理をした上で出すため、本格イタリアンやフレンチなどハイレベルなものは難しいですが、味噌汁は江戸前味噌を使用したオリジナルのものを提供しますし、今後も地域とコラボレーションをして、上野ならではのお惣菜なども導入していきたいと思っています。
今後のトーセイホテル ココネシリーズの展開と戦略を教えてください
昨年12月の神田を皮切りに、今年12月に上野、そして2020年には上野御徒町と浅草に開業を予定しています。上野・浅草エリアはホテル激戦区ではありますが、同社のようにビジネスホテルで「和モダン」というコンセプトや春夏秋冬を打ち出すところはないので、その部分は続けつつ、女性中心にSNSを使ったブランディングも行っていきたいと考えています。実は神田の利用者の4割は女性であり、非常に女性が泊まりやすいホテルとしてブランディングされています。そういった既存ホテルの経験を浅草界隈も活かしていきたいですね。
また課題としては、部屋タイプによりターゲットをある程度絞っていますが、本当に取り込めるかというところ。特にファミリー層に対しては、戦略は立てているものの、なかなかファミリー層がビジネスホテルを選んでくれることは少ないため、雑誌などの広告掲載も検討しています。インバウンドは戦略を大きく間違わなければ一定程度は呼び込めると思うので、あとはファミリー層や女性客など国内の観光客をどう取り込むかが課題です。
(以上、インタビュー内容)
最後に
不動産マーケティング事業を行う株式会社マーキュリーが集計した「2017-2018年 東京23区ホテル供給比較」によると、東京23区の総物件数は昨年101物件に対し、今年は147物件と46物件も増加している。中でも最も物件数が増えたのは、同ホテルがオープンする台東区で、2018年全体の26%を占める38物件が供給された。
不動産の価値再生だけでなく、ホテルコンセプトとサービスを武器に女性客やファミリー層を取り込むという、ビジネスホテルの概念を打ち破る同社の参入により、ホテルラッシュが白熱する上野・浅草エリアが今後一層賑わっていくことを期待する。
■「トーセイホテル ココネ 上野」公式サイトはこちら
(HOTELIER編集部)