パンデミックの最中のホテル再開においての推奨事項とNG事項
主力商品のかつてない需要減退に直面しているホテル業界。
事態を好転させるため、多くのホテルが自身を見つめ直し、そのあり方を再考しようと努めているのではないだろうか。問題は、その方法についての共通認識が存在しないということだ。
「我々は何もハイテクばかりを求めているわけではない。非接触式であってもよいが、やはり鍵を握るのは人間だ。マスクをつけていても、笑顔でいることはできる」
先月開催された”The New Travel“の会議の場でこう語ったのは、9つの超高級ホテルを運営するDorchester Collectionの最高執行責任者フランソワ・デラハイ(François Delahaye)氏。
1週間に及ぶバーチャル会議において、営業再開の戦略は千差万別であったが、その多くはこの時代の現実を否定しているように見えた。
例を挙げるなら、旅行という行為が感染リスクを高めるものであるということ。
疾病対策予防センターが明らかにしたこの事実は、今や誰もが知る「現実」だろう。
しかし、今季節は夏を迎え、旅行者たちは旅の準備を始めている。
そんな今、営業再開を控えたホテル経営者の皆様に伝えたいこと、それは、サービスとホスピタリティの間には明確な違いがあるということだ。
サービスとは、スピード、利便性、効率性を提供すること。
ホスピタリティとは、見知らぬ人を歓迎し、安心感を与えること。
どちらも、ホテル特有の「je ne sais quoi(言葉に出来ない魅力)」に欠かせない要素なのだ。
北東海岸の営業再開して間もない店舗では、これらの要素のバランスがやや偏っているようだった。6月の8日間の旅で様々なアプローチを比較してみて、この業界を存続させるためにはテクノロジーが必要だと確信したのだ。ホテルを生涯愛する者として、ホテルの移動と変革の力を信じている私にとって、以下の「NGリストと推奨リスト」は、取り壊すためではなく、作り上げるための努力である。
【NGリスト】
コロナ騒動が嘘のように、ここマサチューセッツ州ケープ・コッド(Cape Cod)は夏の繁忙期真っ只中だ。人々はパステルカラーに身を包み、通りにはヴィンテージカーに満開の紫陽花。そして冷えたビールと牡蠣で客をもてなすリゾート施設の数々…
ケープ・コッドの海の魅力を支える強みは、大西洋に向かって遥か何マイルも続く砂浜を湛えるその岬にある。ここでは、2020年の出来事を全て忘れ、あらゆる悩みや心配事を海の水に洗い流すことができる。そんなケープ・コッドにあるお洒落な有名ホテルたちにとって、やってはいけないこととは何だろう。
以下はその一例だ。
NG事項①
「閉鎖中の設備のための料金をそのままフルプライスで請求する」
これはレジャー旅行においてはかなり大きな問題だ。ケープコッドの多くのリゾートは健康維持プログラムを中心に構築されており、今なおそれを推進しているが、提供することはできずにいる。多くの場合、スパ、温水浴槽、フィットネスセンターは完全に閉鎖されているか、または予約でいっぱいの状態だ。多くのビーチリゾートでは、「ビーチカバナを予約できればラッキー」といった状況だ。こうした共用設備がパンデミック中に閉鎖されることは至極真っ当なことだろう。
だが、それら全ての設備が通常稼働している場合と同じ料金を請求するのは、果たしてフェアと言えるだろうか?
解決策:もし設備閉鎖にもかかわらず価格を下げられない場合、客足を遠ざけないための最善の方法は、価格設定の透明性を保つことだ。
ゲストに価格設定の理由を提示することで期待値を管理できる、ダイナミック・プライシング(動的価格設定)ソフトウェアの使用を検討するのもいいだろう。
NG事項②
「機能が万全でないアプリをゲストに案内する。」
弱い無線LANやその他の不具合のために物件のアプリをダウンロードして開くことができない場合、ゲストはおそらく予約を取ることもできず、物件内のプログラムスケジュールの情報も得られず、体験しに来た多くのハイライトを楽しむこともできない。
従来のデスクコンシェルジュのモデルでは、もはやパンデミック時代の旅行者のニーズを満たすことができないため、コロナ禍の期間中はこの点がより重要になる。私のケープ・コッドでの体験では、コンシェルジュが不在で(リクエストが殺到していたため)、到着前になっても誰も電話に出なかった。
解決策:この問題の解決策は、何もロボットの軍団である必要はない。
NuvolaのSMS「Guest Chat」やペニンシュラホテルズが提供する「Pen Chat」のような24時間365日対応のデジタルメッセージングソリューションは、テキスト、WhatsApp、WeChat、Facebookメッセンジャーからアクセスできる。
これらの部分的に自動化されたサービスは、ホテルのスタッフがより迅速かつ効率的にリクエストに応えるのに役立つ。
なぜなら、コンシェルジュは決して”busy signal“(通話中)であってはならないからだ。
NG事項③
「ソーシャルディスタンスをおろそかにする。」
もしあなたのプールやメインレストランがマスクをつけていない子供たちで溢れているなら、ゲストがスマートフォンでアクセスできるメニューのQRコードを提供していようが意味がない。ケープの多くのレストランは収容率が50%に達した時点で利益を上げているが、このことを考えると、こうしたミスはかなり許されないものだ。需要があるからといってテーブルを増やしてはいけない。
最大収容人数を維持することは至極当然のことのように思えるが、多くの場合、共同の会場では6フィートルールに少しでも似たことを実践していなかった。
解決策: ディズニーワールドは数年前に「魔法のリストバンド」を使って無意識のうちにこの問題に取り組んでいた。
シンプルなRFIDゴム製のリストバンドには、識別情報やクレジットカードの承認を含むデータを保存するコンピュータチップが埋め込まれており、ホテルは、大人用プールやプライベートラウンジなどの共用エリアや「VIPエリア」へのアクセスを制御することができるのだ。
【推奨リスト】
ナンタケット海峡(Nantucket Sound)を渡るフェリーに暫く揺られ、私はとある島に辿り着いた。外界の喧騒から逃れたこの島では、花箱と保守主義の静かな香りが、夏の昼下がりの乾いたバラの芳香のように家々に漂っている。17世紀以来、かつて捕鯨の都だったこの島は、多くの人が移住を夢見ながらも、手に入れることのできない海の楽園だ。コロナウイルスから比較的縁遠い場所となっていることも、このことをますます明白にしている。
7月7日の時点で、ナンタケット病院は合計27件の陽性例を報告しているが、入院した陽性患者はゼロであった。
公共の場でのマスク着用は、現地の投票で義務付けられているため、厳格な遵守が規範となっていいる。
推奨事項①
「タッチレスチェックインを提供する。」
島の北側、趣向を凝らした18室の部屋を持つBrass Lantern Inn。
このホテルのおもてなしは、私が実際に到着する数日前から始まっていた。
SMSで到着予定時刻を聞かれ、私がそれに答えると、スタッフが事前に準備をしてくれた。また、私がもっと詳しくチェックインの方法について知りたいと思った瞬間、私はまたメッセージを受け取った。「あなたの部屋には鍵がかかっていません、照明はついています、鍵はドレッサーの上にあります」
結局4泊の滞在中、宿への出入りに人間の助けを必要としたことは一度もなかった。今年の夏は、他の生身の人間と接触する必要がないのは、驚くほど爽快であった。タッチレス・レセプション(非対面受付)とはまさにこういうものだと思う。
推奨事項②
「デジタルコンシェルジュを提供する。」
24時間365日対応のデジタルコンシェルジュは、到着前、滞在中、滞在後のシームレスなコミュニケーションを提供するリゾートの標準となりつつある。
この技術ツールを使用することで、ホテルはゲストのニーズや要望、質問をいつでもホテルのスタッフに直接テキストで伝えることができるため、ゲストの好みに関する貴重な情報を得ることができるようになる。
私の場合は、レンタサイクル、地元のレストラン、および島全体のシャトルに関する問い合わせに迅速かつ正確に回答された。
「ゲストチャットは、あらゆる嗜好について網羅しています。 私たちは、部屋のタイプの要望から、食べたいもの、追加の枕の希望に至るまで、ゲストの求めるものを知りたいですよね。 自動化により、ホテルができることはたくさんあります。 ホテルがゲストチャットを使用していない場合、ゲストは電話の待ち時間に身動きがとれなくなってしまいます」と、ホテルソフトウェア会社Nuvolaの創設者兼CEOであるフアン・カルロス・アベロ氏は語っている。
特筆すべきは、これがコロナ時代のルームサービスの鍵にもなっていることだ。
“あなたの朝食が用意され、お持ち帰り用のパントリーに置かれます。 Bon appétit(どうぞ召し上がれ)!”
これは、前夜にメニューの好みをデジタルで選択した後、ゲストが受け取るSMSの通知です。
現在では、フードトレイやカートは部屋の外に置いてあるか、パティオのテーブルに置いてあり、部屋の中に運ばれるのではなく、客が取りに来るようになっていた。
推奨事項③
「地元のオススメを教えてあげる。」
“地元のビジネスをサポートしましょう!”というのは、今ではお馴染みのセリフであり、私たちの共通の呼びかけである。どこを旅していても、コロナ禍の期間中は地元の人の意見を聞くことが不可欠だ。お店、レストラン、ツアーサービス、地元の博物館、地域のイベントなどは通常営業していないことが多く、Googleでさえもリアルタイムの情報を提供できないことがある。
手軽に使えるSMSコンシェルジュをタップすると、閉館した捕鯨博物館、町で一番おいしいロブスターロール、屋外席のあるカフェ、そしてプライベートな小旅行に利用できる帆船の船長ジミーについてすぐに知ることができた。トリックは、自動化された「フロー」(よくある質問への回答をテンプレート化したもの)に加えて、必要な時にはホテルのスタッフが教えてくれることである。
マリオット、ヒルトン、アコー、ハイアットなど、世界を代表するホテルブランドの経営陣が、過去最悪の不況にもかかわらず、世界中で営業再開を発表している今、テクノロジーへのこうした表裏一体型のアプローチは重要な一歩となりうる。
STRの最新のデータによると、7月8日の時点で、全米の営業中のホテル10室のうち6室近くが空室となっている。
更に、完全に看板を下ろした数千軒ものホテルがこれに加わる。
今年2月中旬以降、ホテルは400億ドル以上の客室収入を失ったことになる。
今、ホテル業界はサービスの向上と新しい時代の課題への対応のため、これまで以上にテクノロジー企業との協力を強化していく必要に迫られている。
サービス技術は、短期的にはホテルが生き残るための具体的な有効策である。
対してホスピタリティ(見知らぬ人を歓迎し、安全だと感じさせる手法)を向上させることは、長期的な課題であり、ある種不可侵の領域だ。
これを蔑ろにしてしまうのは、人が旅行をする理由そのものを蔑ろにしてしまうのと同義と言えるだろう。
【参照記事】The Do’s And Don’ts For Hotels Reopening Amid Pandemic
「HOTELIER編集部」