白川郷のライトアップ「オーバーツーリズム」解消に向けた“完全予約制”に旅行者の大半が賛成、入場料には課題も

地域商社の合掌ホールディングスは2019年12月29日、観光公害=オーバーツーリズム問題に対峙する白川郷に関するアンケート調査を実施したと発表した。

2019年8月に設立した同社は、宿泊予約のシステム化、ガイドサービス、回遊地図の制作、地域課題解決などを手掛けている。同社はDMOではなく民間企業の地域商社として、地域住民と観光客の共存する地域づくりを目指しており、白川村ではレジデンス・ファースト=居住者を最優先させる施策を数多く行う。国内では白川村をはじめ京都や他地域、さらには海外のオーバーツーリズム問題に対処する自治体や民間企業と積極的に交流している。

対象集落600人弱に対し、年間観光客推計約180万人と居住者の3,000倍もの観光客が押し寄せる白川郷では、プロモーションよりもマネジメントが最優先課題となっており、持続可能な地域となるため、地域住民と向き合い観光のもたらすメリットを最大化していくことを目指している。“受け入れる観光客のクオリティをコントロールする”という新しいマネジメント手法で、量より質を重視する同社は、データ活用により現状を正しく把握し次世代への投資を積極的に行なっていく考えだ。今回のデータは今後の体験造成や商品開発の参考とし、白川郷らしさを創り出していくという。

アンケートは2019年8月~9月にオンライン(ウェブサイト、Facebook、Instagramなど)で行われた。調査対象となったのは、2020年に白川村を訪れる予定のFIT(個人旅行者)2,752名である。国籍別では台湾からの旅行者が最も多い35.6%となり、次いで日本18%、タイ14.2%、香港13.1%、中国5.1%となった。オンラインでのアンケートということもあり、年齢層は20代~40代が大半を占めた。

白川郷への来日回数は「初めて」という旅行者は76%、「1回来たことがある」旅行者は17.5%で、白川郷が住民生活圏かつ世界遺産エリアであることを旅行者の97%が知っていた。白川郷へ期待することでは「美しい景色」(39%)や「文化体験」(25%)という回答が多かったものの、現状は体験プログラムが充実しておらず、現地での体験事業創出は必須と言える。

お土産は主に、他の地域では販売していない「白川村特産品」、パッケージデザイン含め合掌造り独特のお菓子などの「友人への土産物」、日付や名前の刻印ができる「カスタマイズ商品」の3つに分類された。現地体験では、地域食材を使用した食事や軽食などの「現地グルメ」、合掌造りへの宿泊や地元住民との会話をする「文化・地域体験」の2つに分類された。

白川郷では展望台の大混雑を避けるため、2019年より完全予約制を実施している。展望台までの待ち時間については73%が「30分以上待つことは許容できる」と回答しており、予約制や混雑緩和への理解を示した。冬季ライトアップに関しては、90%の旅行者が完全予約制になったことを知っており、日本国内のみならず、台湾のメディアなどで取り上げられたことで海外でも話題となっている。

また、イベントを維持していくために入場料を徴収することについて89%が賛成する一方で、11%が「イベントは無料であるべきだ」と考えている。「混雑が緩和され、ゆっくり鑑賞できるのであれば4,000円以上払っても良い」という回答も5%程度あった。現在の1日券は車1台あたり4,000円となっているが、人数の少ない場合(1~2名利用)には高くなり公平性に欠けるという意見も多く、入場料は1人あたりの料金が妥当と考えられる。

完全予約制の導入と実行を評価する観光客は多く、「来場者数を制限することは、地域住民への理解、世界遺産を保持していくこと、そして観光品質の向上のために必要である」という肯定的な意見が多数寄せられた。こうした意見から、同社は「京都や鎌倉などのオーバーツーリズムで問題を抱える地域への期待値は高い」としている。さらにこの度の調査では、宿泊の抽選予約システムなどについても、これまで旅行代理店や代理業者に買い占められ個人旅行者に不利なイベントだったことが判明した。訪日外国人の少数からは「旅行日程の組み立てが難しい」などの意見もあった。

一般社団法人白川郷観光協会によると、ライトアップイベントには7,000~8,000人もの観光客が一気に押し寄せることから、村内混雑、交通渋滞、違法駐車、ゴミ・トイレ問題、住民とのトラブル、景観破壊など多くの問題を抱えていた。そこでライトアップ委員会は、観光業界では類を見ない完全予約制の採用を決定し、オーバーツーリズムへの対応・運営を株式会社旅ジョブへ完全委託した。加えて、日帰り駐車場の予約は旅ジョブがPeatix Japan株式会社と連携したことで、これまで1~2時間待ちだった長い渋滞が解消され、2019年のライトアップでは10分以内に駐車場に入ることができた。

完全予約制を導入して初めてのイベントとなった2019年1月14日は、現場に緊張感が漂っていたが大きなトラブルもなく無事に終えることができたという。白川郷を愛し今回で30回目の来村となる台湾人写真家のチウ氏は「2011年から毎年ライトアップに参加しているが、以前と異なり会場内がこんなにも整然としていることには本当にびっくりした。一緒に来た友人も幻想的な風景を非常に満喫していたので、予約制は大成功ではないか!」と満面の笑みで語った。他の観光客からは「友人から混雑しているとは聞いていたが、今回は美しい風景を楽しめた。また違う季節に来てみたい」「スムーズに展望台に行くことができた」など好評だった。

ライトアップイベントの予約の管理・運営を行うNOFATE株式会社が2019年8月に発表した『2019年のお客様アンケート結果』では、申込回答者の86%が完全予約制に賛成だった。ポジティブな意見では「観光品質を保つために必要」「世界遺産の環境保護のため」など、ネガティブな意見では「システムが複雑」「宿泊先選択肢、イベント催行日が少ない」「旅行計画が立たないので、先着順にすべき」などの声が上がった。

観光庁が発表した『持続可能な観光先進国に向けて』によると、訪問旅行者の増加について地方自治体が認識している課題として「観光客のマイカーや観光バス等による交通渋滞」「日帰り客等の増加による観光収益の漏出(リーケージ)」「宿泊施設の不足」という回答が上位である。白川郷も同様の問題を抱えているが、2019年からライトアップイベントに完全予約制を取り入れたことで混雑が緩和され、観光客が例年より景色を楽しむことができた。一方で、入場料や宿泊施設など課題も明らかになり、観光客の満足度アップに向けてさらなる検討が必要と言えそうだ。白川郷の取り組みが各観光地のオーバーツーリズム解消のモデルとなり、問題解決に寄与することを期待したい。

【参照記事】
・「量より質」の観光地経営へ。オーバーツーリズム課題に直面する白川郷で観光客にアンケートを実施。
・1,600人の小さな村の大きな挑戦!観光立国へ、世界遺産・白川郷で地域商社発足。
・オーバーツーリズム問題解決へ新たな糸口!完全予約制の白川郷ライトアップイベントが大きな成果。
・オーバーツーリズム解消に向け、完全予約制が定着か。2020年白川郷ライトアップの宿泊抽選予約が始まる!
【参照サイト】
観光庁|「持続可能な観光先進国に向けて」の公表

(HOTELIER 編集部)


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