JTBが2020年の旅行市場の見通しを発表、国内旅行者・訪日外国人ともに増加と推計

株式会社JTBは2019年12月20日、2020年の旅行市場について見通しを発表した。

この調査は、1泊以上の日本人の旅行(ビジネス・帰省を含む)と訪日外国人旅行について、各種経済動向や消費者行動調査、運輸・観光関連データ、JTBグループが実施したアンケート調査等から推計したもので、1981年より継続的に調査を実施している。推計した2020年の旅行市場規模は次のとおりだ。

2019年の実績推計

訪日外国人旅行者数は、8月以降日韓情勢の影響から韓国からの旅行者が減少しはじめ、9月は増加したものの11月は244万人(前年比ー0.4%)となり、1月~11月の累計では2,936万人(同+2.8%)となった。2019年の訪日外国人旅行者数は3,180万人(同+1.9%)になると推計している。

国内旅行は、観光庁の宿泊旅行統計によれば、2019年の1月~10月の日本人の述べ宿泊者数の合計は前年より0.3%増加しているものの、6月以降は前年割れが続き、台風19号の影響などから10月単月の速報値は3,727万人泊で前年同月比ー2.8%となっている。2019年の国内旅行人数は2億8,490万人(同±0.0%)になると推計している。

2020年の訪日旅行の見通し

1.「東京2020大会」期間中の減速は想定されるが、年間の訪日外国人旅行者数は3,430万人(前年比+7.9%)と推計

2019年の訪日外国人旅行者数は、7月までは前年を上回って推移していたが、8月以降は日韓情勢の影響から韓国からの旅行者が減少し始めた。9月は「RWC2019日本大会」の開催により全体数では増加したものの、10月以降については前年割れが続いている。観光局の12月18日の発表によると、1月~11月の累計では2,936万人(同+2.8%)という状況だ。国別にみると、韓国以外のアジアは中国やタイを中心に堅調に推移している。リピーターの増加や地方発着のLCC路線の拡大により、地方への旅行者も増えている。

2020年は「東京2020大会」開催による訪日外国人旅行者の増加が期待されるが、「RWC2019日本大会」のような全国かつ長期間開催とは違い、開催期間はオリンピック17日間とパラリンピック13日間で、札幌を除けば東京周辺が主な会場である。よって訪日客は観戦者が中心となり、爆発的な増加は考えにくいのが現状だ。東京と同じように経済が成熟した国の首都開催だった2012年のロンドン大会を例にすると、大会期間中のイギリスへの訪問者は前年の同月と比較して4.2%減少したが、2012年の1年間に訪れた外国人は、前年と比較して0.9%増加した(英国国家統計局)。

2020年の訪日外国人旅行者数は、世界景気の減速による減少の懸念はあるが、低迷する韓国からの旅行者が2019年比で15%程度まで回復すると仮定する。「東京2020大会」開催による波及効果、2019年1月から中国やインドを対象にビザの発給要件が緩和されたことや日本路線の増便、旅行者の伸びが続く中国、および経済成長の著しいアジア新興国からの旅行者数の増加が見込まれることから、3,430万人(同+7.9%)と推計している。

2.宿泊施設の多様化と民泊の利用、ラグジュアリーホテルの開業相次ぐ

訪日外国人旅行者の増加に伴い、各地でホテルの数が増えていると同時に、ゲストハウスなどの簡易宿所も大幅に増え、訪日外国人旅行者の利用も増えている。近年、古民家や歴史的な建造物を活用した宿泊施設やテーマ性の高い宿泊施設も増え、その地に伝わる生活文化の体験が訪日外国人旅行者の関心を集めている。

民泊については、「RWC2019日本大会」の影響で日本人を含む期間中の利用者が65万人に達したサイトもあり、「東京2020大会」期間中も多くの利用者が見込まれる。また、2020年は日本に足りていないと言われているラグジュアリーホテルが続々と新規開業予定だ。

3.急激な旅行者の増加やリピーターの増加への対応として、地域も量から質への追及に転換「国立公園満喫プロジェクト」などで日本の自然も魅力としてアピール

訪日外国人旅行者の増加につれ、日本を初めて訪れる旅行者だけでなく、何度も繰り返し訪れるリピーターの割合も増えてきた。日本への旅行に求めることも多様化し、スポーツ観戦、イベント参加、食を楽しむなど特定の目的を持った旅行や、都市部や有名な観光地だけではなく、日本人でも訪れる人が多くない地域へと足を運ぶ旅行者も増加している。

しかし、地域の人々にとっては生活圏でもあるエリアで多くの旅行者を受け入れるには限界があり、最近は旅行者数を追及することから、本物かつ高品質な価値を理解してくれる少数の旅行者に提供する、いわゆる量から質への転換を図る地域が増えている。事例の一つとして、環境省では、日本の国立公園を世界へ向けた魅力的な観光資源として整備する『国立公園満喫プロジェクト』を推進しており、アドベンチャーツーリズムやエコツーリズムなども含め、日本の豊かな自然や自然の中での付加価値の高い体験が注目されそうだ。

2020年の国内旅行の見通し(訪日外国人旅行者は除く、日本居住者の国内旅行)

1.国内旅行人数は2億8,632万人(前年比+0.5%)、平均消費額は38,130円(前年比+4.0%)、国内旅行消費額は10兆9,200 億円(前年比+4.6%)と推計

観光庁の宿泊旅行統計調査によると、2019年の日本人の延べ宿泊者数(宿泊施設に泊まった人)は、GW10連休の効果もあり1月~10月の累計で2018年を0.3ポイント上回っている。ただし、台風や大雨の影響などで6月以降は前年割れが続いている。10月からの消費税増税も始まり、ゆとりがなくなったと感じている人は増えている。

そうした経済環境への先行き不安要素はあるものの、株価、雇用環境は悪化していない。2020年前半は前年のGWの反動や景況感、「東京2020大会」前後の首都圏を中心とした旅行抑制の影響などで勢いがないと考えられるが、後半には消費税増税の影響が薄れ、オリンピック後の宿泊施設料金も落ち着くと考えられることから、旅行人数は微増と予測している。平均消費額については、消費税増税の影響と「東京2020大会」開催による宿泊料金の上昇などから、昨年より増加すると推計している。

2.SNSにより「個」の力が強まり、ニッチマーケットを後押し

現在は誰もがスマートフォンを所有し、SNSを通じて各人のネットワークが構築され、情報の取得だけではなく「発信」することが当たり前になり「個」の力が強くなっている。それにつれて個人の価値観や志向がより強く反映され、特定の目的を持った「目的型」の観光も増えてきた。一つ一つのマーケットは決して大きくはないが、SNSのつながりなどによって大きく育つ可能性もある。

例えば、御朱印集めや城巡りなどもその一つだ。日本の文化を身近に感じられる機会でもあり、「集める(コレクション)」魅力も人気の理由となっている。また「日本百名城」や「続日本百名城」に選定された城をめぐる旅も人気だ。2020年の大河ドラマ「麒麟がくる」は3年ぶりに戦国時代が舞台となり、ゆかりの地を訪れる人も多いと考えられる。

3.個人の志向の多様化や異業種の参入による宿泊施設の多様化

個人の志向の多様化により、いわゆる観光地だけでなく、ありふれた地域の人々の生活文化に触れるなど、旅先の日常の中にあるちょっとした非日常(異日常)が注目され、訪れるエリアが増えるとともに宿泊施設も変化しつつある。商店街や空き家などを改築し、まち全体をコンテンツ化して地域活性化を図る分散型ホテルも広がってきた。滋賀県大津市の百町商店街では、古い町家を改築した「商店街ホテル」を開業し、旅行者がホテル内を移動するようにまち中を歩き、地元の文化や食を体験できる場となっている。さらに異業種からのホテル参入も活発で、宿泊施設の多様化によって滞在の楽しみが増え、国内旅行のきっかけとなることが期待される。

 

この度の調査では、訪日外国人旅行者数が過去最多となった2018年の3,119万人を超え、2019年・2020年にも過去最高を更新していく見通しとなった。一方で、政府は2020年に訪日外国人旅行者を4,000万人とする目標を掲げているが、JTBの予測では570万人少ない見通しとなった。目標を達成できるかどうかは「東京2020大会」開催による旅行者の増加や、地方周遊のさらなる増加が鍵となりそうだ。開業予定のラグジュアリーホテルがどのような影響を与えるかにも注目したい。

国内旅行については、2019年のゴールデンウィークは10連休だったが2020年は5連休となることから、動きはやや鈍くなるとJTBは予測している。しかし、2020年のカレンダーの特徴として夏休み期間中に「東京2020大会」の日程が組まれ、さらにその前後に4連休が2回あるため「旅行に出かける環境としては好材料」と述べている。2019年にはなかった4連休が旅行を後押しするかもしれない。

【参照記事】
2020年の旅行動向見通し発表 訪日外国人旅行は引き続き拡大

(HOTELIER 編集部)


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