24時間完全無人化を実現した宿坊「Temple Hotel 正伝寺」開業、インバウンド観光客の誘致プロジェクトも開始
『お寺ステイ(OTERA STAY)』を運営する株式会社シェアウィングと日蓮宗 松流山 正傳寺は2019年7月25日、東京都港区にて24時間完全無人の宿坊(宿泊施設)「Temple Hotel 正伝寺(テンプルホテル正伝寺)」を開業した。加えて、東洋学園大学と共同し、インバウンド観光客の誘致プロジェクトも開始すると発表した。
『お寺ステイ』とは、日本の歴史と文化が詰まった社寺での体験・滞在により、「日本の魅力」と「ありがとうの感謝の輪」を世界に広げていく体験ステイサービスだ。社寺での日本文化体験を通じて、お寺で心も体も“セルフクレンズ”し、自分を見つめ、高める場作りを行っている。2017年9月には、岐阜県高山市にて「Temple Hotel 高山善光寺」を開業した。
「Temple Hotel正伝寺」の開業の背景には2つの理由がある。1つ目は、人口減少による寺院の檀家減少だ。日本に77,000以上存在するお寺のうち、30%以上が檀家減少を主な理由とした後継者不足に直面しており、今後消滅していくことが予測されている。シェアウィングは、現在社寺の持つ観光資源・空間資源・地域の資源を最大限に活用し、檀家に代わる新たなファンやコミュニティを形成することが全国の寺院に求められていると考えている。
また、お寺の存続危機は地方の話だけには留まらず、都心部にも及んでいる。正傳寺は東京都港区芝に所在し、戦後日本の発展とともにお寺の周りも様変わりしていった。特にバブル景気を境に、昔からその土地に住んでいた檀家がよその土地に引っ越してしまい、お寺の運営がより難しくなっているケースがあるといい、今の時代に合わせたお寺のあり方が問われている。
2つ目の理由は、寺院における業務煩雑化とIT活用余地の大きさだ。地方部では空き寺・廃寺が増えており、複数の寺院の住職を兼務しているお坊さんが増加している。業務量が増える一方、やり方を変えなければ業務が回らない。総務省の就業構造基本調査によると、週75時間以上勤務などの条件を満たした“過労死予備軍”の割合を職業別に分析すると、調理従事者2.8%、教員4.1%、医師11.1%に対し、宗教家は14.8%と極めて高い状況にある。こうした状況から、ITを活用して業務効率性を高め、働き方改革を実現する必要がある。また、IT活用についてはまだこれからという寺院も多く、同社はITを導入する余地は大きいと考えているという。
同社は同施設の開業について、「戦後から続く地価高騰により、昔からその地域に住む檀家が減少している都心部のお寺にとって、宿坊「Temple Hotel 正伝寺」がお寺の新しい柱の一つとなることを目指していきます」と述べている。
日本初の24時間完全無人化を実現した同施設は、約400年の歴史を持つ日蓮宗のお寺「芝・正伝寺」にある。最寄りの浜松町駅・大門駅から徒歩10分ほどでアクセスできる。宿泊者は、テレビ電話を通して好きな時間にチェックイン・チェックアウトを完了できる。また、敷地内の本堂やお寺内の会議室も予約が可能だ。さらに、宿泊者へ「お守りづくり」「数珠づくり」「写経」の体験も提供を予定しており、特にインバウンド観光客からの高い需要を見込んでいるという。
2015年に新築された居住棟に宿泊でき、2階建ての独立住戸で上下に1室ずつ客室がある。各室1LDKのお風呂付きでフルサイズキッチンも完備し、各室最大6名・計12名までの収容が可能だ。さらに、お寺一軒家貸切も可能だ。
東洋学園大学との共同プロジェクトでは、学生のプレゼン発表のうち優秀なものを元に、インバウンド観光客へ向けた体験提供を予定しているという。マーケティングが専門で、同大学で教鞭をとる本庄加代子准教授は次のように述べた。
「お寺という、文化的・社会的付加価値の高い資産を、従来お寺産業にはなかったマーケティング視点から輝かせるための施策を、先入観のない大学生が発想していくことそのものに、社会的意義を感じた。学生はそれまで無関心であったお寺を身近に感じるきっかけとなり、大学での学びを深めることができた。実施するにあたり、連携先の正伝寺様もシェアウィング様もビジネスではなく、教育的見地からの理解も深く、実施環境が整っていることもありがたいと感じている。この点は今後大学が社会から強く求められているPBL(プロジェクト型の教育)を展開する上で、非常に重要な点であると考えている。」
今後は、企画体験をより具体的な戦略企画に落とし込み、そのPR活動などを検討することを予定している。
シェアウィングは今後の展開について、アバターによる接客販売・案内などを得意とする株式会社UsideUと共同の上、宿坊向けアバター「尼ター(アマター)」を開発しており、「Temple Hotel 正伝寺」や今後展開していく宿坊への導入を予定していると述べた。「尼ター」はチェックインや宿坊案内時の担当者がその見た目を変える目的で使用し、寺院に宿泊する仏教的な世界観の盛り上げを狙っているほか、複数寺院の遠隔管理にも利用可能性があると考えている。
加えて、同社は2020年までに100ヶ寺とのパートナー契約、10ヶ寺の宿坊開業を予定している。その目標に向け、お寺の未来を支えたいと思っているお寺生まれの方やITを駆使してお寺を変えたい人を募集する考えだ。特に、お寺の後継予定者や働き方を模索したいお坊さん、お坊さん×民間企業のパラレルキャリアを目指したい方を強く募集していくとしている。
この度開業した「Temple Hotel 正伝寺」をはじめ、近年さまざまな企業が“お寺×宿泊”という事業を進めている。高齢化・人口減少・高齢化に伴い、2040年までに全国1,800市区町村のうち896自治体が維持困難になると言われており、該当する自治体にあるお寺も維持が難しいだろう。そのままにしておけば空き寺・廃寺となりかねないお寺に新たな価値を与え、地方創生やインバウンドの誘客につなげていく取り組みが、今後も全国各地で行われることを期待したい。
■「お寺ステイ」公式サイトはこちら。
■「Temple Hotel 正伝寺」公式サイトはこちら。
【参照記事】
・日本初、24時間完全無人の お寺×IT“テラテク”宿坊「Temple Hotel 正伝寺」をオープン
・〜お寺とベンチャー企業がタッグを組んだお寺再生プロジェクト第一弾〜「TEMPLE HOTEL高山善光寺」9月1日グランドオープン。
【参照サイト】
・お寺の困りごと“あるある”をテクノロジーでどう解決する?
・2040年までに33%の「お寺」が消滅する? あなたにとって全く無関係ではない迷惑な話
(HOTELIER 編集部)