接客・集客支援サービス「QRHOTEL」訪日中国人客への接客効率向上や口コミ増加に期待
ITソリューション事業等を行う株式会社イー・ビジネスは2019年12月19日 、同社の宿泊事業者向け接客・集客支援サービス『QRHOTEL』が、接客効率のアップやホテルへの口コミの増加などに繋がる効果が期待できると発表した。
同社は2019年4月に『WeChat』を運営する中国大手IT企業・テンセントの戦略パートナーとなり、日本のインバウンド分野等で協業する業務提携を結んだ。そのなかで、中国人が訪日時に必ず利用する宿泊施設をターゲットに、中国最大のオンラインコミュニティ『WeChat』内で使用できるアプリケーションサービス『QRHOTEL』の開発に着手した。『QRHOTEL』は「WeChat ミニプログラム※」を活用した日本初のSaaSサービスで、ホテルや旅館など宿泊業における訪日中国人客の接客現場の課題を解決する。 2019年7月にβ版をリリースし、4カ月間の試験運用を通じて宿泊施設や利用客からの評価や要望を取り入れ、機能の改善と充実を図り11月25日に正式版をリリースした。
※「WeChat ミニプログラム」:WeChat上で使われるアプリであり、追加インストールも必要なく、必要な時のみに呼び出せる手軽さと便利さから「次世代のアプリ」と呼ばれ、中国で急速に普及しており、日本国内でも今後導入が増えると予想されている。
『QRHOTEL』は、中国人訪日客が滞在先ホテルで専用のQRコードを読み込むことで、「周辺スポット案内」「おかえり案内」「日中音声通訳」など旅先で役立つ機能を利用できる。宿泊代金だけでなく、館内レストランでの飲食やホテルアメニティ、お土産などの購入代金のEC決済も行え、アプリ一つで中国人宿泊客がより充実したホテル滞在を楽しめる。中国の大型連休である「春節」や2020年夏の東京オリンピック・パラリンピックを控え、日本国内のホテルや旅館等から同サービス導入の問い合わせが増えているという。
同サービスの試験導入として、2019年7月から株式会社途益グループが運営する「ホテルコンファクト 上野駅前」へβ版を導入した。同ホテルでは宿泊客の5割が中国人(団体・個人客を含む)だが、中国語で接客できるスタッフは2割ほどしかいない。特に、団体客からは館内設備や周辺情報など決まりきった質問が多く、接客の負担は大きいものだった。また、団体客のチェックイン・アウト時にフロントが混雑することも接客効率の課題だった。途益グループの副社長・徐炯氏は、中国人宿泊客への接客の効率化を考えていたところ同サービスを知人の紹介でり、写真と文章の登録だけでサービスを利用できる手軽さと、手数料の安さに魅力を感じたという。
導入から5カ月が経ち、中国人宿泊客約500人が同サービスを利用した。1ユーザーあたりの平均利用回数は約8回で、特に「周辺情報」「クイックWi-Fi」「お帰り案内」「日中音声翻訳」の機能が頻繁に利用され、ホテルでも外出先でも便利なツールとして活用されている。『WeChat』を通じた友人へのホテル情報の共有は123件に上り、今後ホテルへの直接予約に繋がるなど、口コミによる情報拡散効果が期待される。
中国人宿泊客からは「QRコードを読み込むだけなので簡単」「喫煙場所など、館内案内が分かりやすくて助かる」、「周辺施設を教えてくれる機能のおかげで調べる時間が省けて、その分観光を満喫できる」と好評の声が届いている。また、現場で接客にあたるスタッフからは、「中国語で対応できるスタッフがいないといつも緊張していました。『QRHOTEL』導入後は、一人でも対応できることが増えてホッとしています」、「ホテル周辺の観光スポットやコンビニエンスストアの場所などの質問が減り、一対一の接客時間が短縮されました」と、接客効率が改善したとの声が上がっている。
同ホテルは以前は中国語が話せるスタッフに頼りきりだったが、同サービスを導入してからはQRコードを紹介するだけで済み、接客の負担が大幅に改善された。加えて、宿泊客からの「意思疎通ができない」「ホテル施設や周辺情報が分からない」等の相談が減り、観光スポットやお土産の提案など、より満足度を高める接客に取り組む時間が増えた。口コミでの拡散やリピート客を獲得できる同サービスに今後も期待しているという。
イー・ビジネスは2020年7月末までに『QRHOTEL』を500施設以上で導入することを目指している。集積した中国人観光客の訪日データを今度はマーケティング分野で活かし、更なる訪日中国人インバウンドに貢献していく考えだ。
2018年に訪日外国人観光客の数は3,119万人を超え、そのうち中国人は838万人と過去最多となった。中国人訪日客の日本での総消費額は1.5兆円に達し、訪日外国人の消費額の3分の1を占めている。訪日観光客の中で、中国人の存在感はますます高まる見込みである。
訪日観光客にとって、旅行は「旅前・旅中・旅後」という3つのシーンに分けられる。中国では、旅前サービスとして『Ctrip』などのオンライン旅行予約サービスがあり、旅先で気に入ったものは帰国後に『コアラEC』『天猫』などのECサイトを通じて購入できる。しかし、まさに訪日中である“旅中”の宿泊、ショッピング、文化・アクティビティ体験等のニーズに対応するサービスで目立ったものはない。
ショッピングや電車・バスでの移動、レストランでの飲食など、中国人訪日客向けの“旅中”サービスを必要とするシーンは多くある。イー・ビジネスは『QRHOTEL』の好評を受け、中国人訪日客の日本滞在をより充実させ便利にするQRシリーズとして『QRCITY』や『QRorder』などを2020年中にリリースする予定だ。同社は「日本のインバウンド事業と中国人訪日客を繋ぐサービスを今後も開発・提供し、日中の懸け橋となる仕組み作りに取り組みます」と述べている。
また、中国人訪日客の旅行はここ数年で大きく変化している。2015年に『ユーキャン新語・流行語大賞』に選ばれた「爆買い」に表れるように、デパートや家電量販店での「モノ消費」が、中国人訪日客のかつての特徴だった。近年は、医療サービスや温泉・グルメを求める「深度遊(趣味やニーズに当てはまる個性重視の旅の楽しみ方)」が流行し、「コト消費」へと変化しつつある。「モノ」と「人間」より、「人間」と「人間」の関わりがより大きく求められるようになってきた。
さらに中国では「“思い立ったが吉日”的な旅」が流行しているという。2009年に漸次的に中国人への個人向け観光ビザの発給が緩和されたことから、特に2015年以降「FIT客(海外個人旅行客)」が増加した。団体旅行とは異なり、個人旅行者が自ら面白そうなアクティビティ・観光スポットを見つけ、移動手段を調べ、宿泊施設を探すなど、旅をデザインするための情報力が求められる。同社は「そこで、宿泊施設を中心として観光案内情報を提供する『QRHOTEL』の価値が十分に発揮されます」としている。
今後も中国人訪日客の「旅中」需要は、小売り業や飲食業、宿泊業を中心に高まる見込みである。同社は、中国人の国民的コミュニケーションツールである『WeChat』を通じて、中国人観光客の「泊まる・食べる・買う・移動する」を全て『WeChat』内で完結する「ALL in WeChat」を掲げ、サービス開発・提供を目指している。また、現在『QRHOTEL』提供の中心となっている首都圏・東海エリアから地方展開を進めるべく、宿泊業者や鉄道会社、レジャー会社や地方自治体との連携も深めていく考えだ。
『QRHOTEL』は、中国人の9割ほどが使用している『WeChat』内で利用でき、訪日中国人客が簡単に利用できるという点が強みと言えるだろう。日本にとって重要なマーケットのひとつである訪日中国人客の“旅中”を充実させるとともに、ホテルスタッフの負担軽減や接客のサポートをする同サービスに今後も注目していきたい。
■「QRHOTEL」詳細はこちら。
【参照記事】
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【参照サイト】
イー・ビジネス、WeChat ミニプログラムを活用した日本初の SaaS サービス 「QRHOTEL」提供開始
(HOTELIER 編集部)