客室数が全国で最も少ない奈良県、外資系や地域密着型など宿泊施設開業の動き
全国で最もホテル・旅館の客室数が少ない奈良県で、新たなホテル開業の動きが活発になっている。
厚生労働省の2017年度の調査によると、奈良県内のホテル・旅館の客室数は9,197室と全国最下位だ。また、国土交通省の調査では、2017年の奈良県の延べ宿泊者数は約265万人で全国46位だった。観光庁が発表した、2017年の外国人観光客の都道府県別訪問率ランキングでは、7.3%と全国9位タイだった一方で宿泊客数は24位にとどまった。
奈良市にある奈良公園周辺の寺社など、歴史文化にあふれた観光スポットはあるが、日帰り客が中心で宿泊は大阪や京都に流れていた。こういった課題を解決するため、県は積極的にホテルを誘致している。
2020年春、国内初進出の外資系高級ホテル「JWマリオットホテル奈良」(157室)が開業予定だ。奈良市が進める大型再開発事業「大宮通り新ホテル・交流拠点事業」の核となる国際級ホテルだという。奈良市の中心部に位置し、平城宮跡・東大寺・古代天皇陵など、日本を代表する史跡へのアクセスに優れている。富裕層を中心とした世界の旅行者を奈良に呼び込む新たな観光拠点の創造を目指している。
知事公舎がある県庁東側でも、ホテル建設の計画が進んでいる。2018年6月に施行された住宅宿泊事業法(民泊新法)の影響もあり、旧市街地・ならまちでは、民泊施設や簡易宿泊所の開業も活発だ。
2018年12月5日、地域密着型ホテル「セトレならまち」が開業する。ホテルは創業150年の旅館「吉田屋旅館」の別館跡地に建設され、近鉄奈良駅より徒歩約8分、JR奈良駅より徒歩約15分に位置する。ホテルのテーマは、“奈良を紐解き、奈良を作るホテル~これまでの歴史が、これからの100年に~”。神戸市や姫路市などでホテルを展開する株式会社ホロニックが運営する。『セトレ(SETRE)』ブランドは兵庫県2軒・滋賀県1軒・長崎県1軒を開業しており、このたび開業するホテルで5軒目だ。
延床面積約2,000平方メートル・4階建てで、全体を町屋風に見立てている。外観や内装に吉野杉やヒノキを多用し、奈良月ヶ瀬と天理という土地の土を利用し伝統技法で土壁が手掛けられた。客室は32室用意し、奈良の山並みを表現した部屋、和紙のふすまや畳など奈良の伝統産業の技術を体感できる「匠室」、興福寺の五重塔を望めるテラスを備えている。レストランでは、大和野菜や大和牛など地元食材を活かしたメニューを提供する。宿泊料金は、平日1泊朝食付き13,000円(税込み)~、土日祝日は1泊朝食付き18,000円~(税込み)。
ホロニックの長田一郎社長は、「100年続くホテルを考えて始まったプロジェクト。地域の資源を発信、企画するホテルをならまちでも感じてもらいたい」と述べた。
ホテルの支配人は、入社5年目の岸本舞さん(27)。同社が手掛ける全国5カ所のホテルで最年少支配人だ。新規ホテルのプロジェクトに関心を持ち2018年にメンバーに選ばれ、女性の視点で照明や内装の仕様を提案し、意欲を買われプロジェクトリーダーに就いた。支配人に決まり、伝統産業の職人らと人間関係も築いてきたという。
岸本さんは沖縄県出身で奈良にゆかりはなく、これまでブライダル担当など現場中心だったという。経営管理業務は初めてだといい、「立地にあぐらをかかず、おもてなしでお客さまに“ここに戻ってきたい”と思ってもらえるようなホテルを目指したい。支配人の起用に正直驚いたが、自分らしく現場での経験を生かしたい。外国人観光客だけでなく、地元の方にも気軽に訪れてもらえる雰囲気のホテルにしたい」と意気込みを語った。
奈良県によると、近年のホテル開業でキャパシティが増大したことから、2013~2017年の間でホテル宿泊客の伸び率は24%増加したという。これまで大阪や京都に流れていた宿泊者を取り込むには、「セトレならまち」のように“奈良県ならではの宿泊体験”ができる施設が必要となるだろう。今後も、奈良県の宿泊施設開業に注目していきたい。
■「セトレならまち」公式サイトはこちら。
【参照記事】
「客室全国最少」打開へ
【参照サイト】
セトレならまち12月5日GRAND OPEN
(HOTELIER 編集部)