カプセルホテルでもない、ビジネスホテルでもない、新形態のホテルを作った先駆者「ファーストキャビン」
日本のカプセルホテルがオープンしたのは今から約40年前。
その時代は、「終電に乗り遅れたから泊まる」「飲み過ぎたから泊まる」といった男性色の強いカプセルホテルが主流でした。しかし、2006年その背景に新しい色を塗った会社があります。
「株式会社ファーストキャビン」
飛行機のキャビンをモチーフにした“カプセルホテルでもない、ビジネスホテルでもない、新しいスタイルのホテル”を生み出しました。2008年に事業をスタート。その翌年2009年に、第一号店として大阪に「ファーストキャビン御堂筋難波」を開業しています。
当時では従来のカプセルホテルのイメージを覆す内装やサービス、コンセプトに、業界内で話題を呼び、ファーストキャビンを筆頭に、新しいスタイルのホテルがどんどんオープンしていきました。
今回は、そんな先駆者的存在である株式会社ファーストキャビンの代表取締役副社長を務める、東 智隆氏にお話を伺ってきました。
ファーストキャビン創業について
Q:カプセルタイプでもないビジネスホテルでもない形態に踏み入った経緯を教えてください。
もともとは設計事務所だったんです。そこで取引のあった企業から、所有する複合ビルを何らかの形で有効活用できないかとの相談があり、“宿”という形態はどうかと思ったのがきっかけです。
しかし、ホテルや旅館だと、法令に則った窓の基準を確保するのが難しく、簡易宿所なら法令に遵守できるということで、カプセルホテルという形態をとりました。
そして、カプセルホテルは、当時男性が宿泊するものというイメージが強く、シャワーを浴びれて寝れれば良いといった本当に簡易的な宿だったと思いますが、今までにはなく使い勝手のよい美しいものを作ろうといったところで、ファーストキャビンが誕生しました。
Q:ファーストキャビンは新しいスタイルのカプセルホテルの先駆者的存在だと思いますが、どうしてカプセルホテルのイメージを変える美しいものを作ろうと思ったんですか?
同じ簡易宿所の用途でも、ビジネス利用だけではなく旅行シーンでの利用、男性のみの利用ではなく女性も利用するといった発想の展開から、今のおしゃれな空間が生まれました。
常に新しいことを考えている創業者が海外に行った時に、スタイリッシュなホステルを見て「これは日本でも流行るのではないか」と思ったのもヒントになっています。
Q:2009年に第一号店を開業しておりますが、立ち上げ時に大変だったことを聞かせてください。
一つ目は、行政の許認可についてです。
ファーストキャビンは、幅1.2m高さ2.1mのビジネスクラスキャビンと、もう一つはベッドの横に床が完備されている幅2.1m高さ2.1mのファーストクラスキャビンの2つがあるのですが、どちらも従来のカプセルホテルの規定とは大きく異なるため、安全は確保されているのか、衛生環境は確保されているのかというところで許可をもらうのが大変でした。
そして、二つ目は営業開始してからのお客様の反応です。ファーストクラスキャビンのお部屋は、従来のカプセルホテルの4倍の大きさがあり、床もあるのでビジネスホテルと判断されてしまうんです。そこで、お客様が鍵のかかる部屋だと思って来る方もおり、利用を中止されるお客様もいました。弊社はカーテンで仕切ることはできますが、鍵をかけることはできないので…。
Q:確かにファーストクラスキャビンは部屋のようにも見えますね。しかしその点、メリットもありますか?
部屋のように見えることで通常のカプセルホテルと価格を比較されることがなく、ビジネスホテルよりも安く泊まれるので、ビジネスホテルまではお金は出せないけど、ある程度個室の空間が欲しい方に人気ですね。
ファーストキャビンのコンセプトやターゲット
Q:飛行機のファーストクラスをイメージして作られていますが、コンセプトは何ですか?
コンセプトは「コンパクト&ラグジュアリー」です。 フロントの接客サービスにおいても、カフェスペースでのサービスにおいても、限られた空間の中で、キャビンアテンダントさんと同じような質の高い接客やサービス作り、そして空間作りに力を注いでいます。
価格はリーズナブルだけど、飛行機に乗っている時と同じくらい質の高いサービスを提供できる、今までにない新しいホテルを目指しています。
Q:全体のターゲットについて教えてください。インバウンドのお客様も多いでしょうか?
出張だけでなくレジャーでもご利用いただいております。
カプセルホテルは電車を乗り過ごしてしまった方や、お酒を飲みすぎてしまった方が宿泊するイメージが多いと思いますが、ファーストキャビンでは宿泊者の90%の方が前日以前に予約いただいていることが大きな特徴ですね。
旅行者の中では、宿泊費は抑えて食事やアクティビティなど体験にお金を使う人が多いです。年代は、20代から40代。男女比は、男6:女4です。 インバウンドの利用者は20〜30%ほどです。ほとんどが日本人なんですよ。
Q:日本人が多いんですね。意外ですね!それは何か理由があるんですか?
実はインバウンドは、30%に抑えているんです。より多くの日本のお客様に快適に過ごしていただくために、外国人の受け入れを抑えています。
しかし、最近では、SNSの反響もあり、宿泊する前に事前に調べていただいており、弊社のホテルに泊まるために来たという人もいるほどです。施設によってはインバウンドの受け入れを多くしているところもあります。
大きな飛躍をとげた2017年について
Q:今年、10月28日に夜行列車をモチーフにした「ファーストキャビンステーション あべの荘」を開業されていますが、夜行列車という乗り物に注目した理由は?
「ファーストキャビンステーション」はJR西日本とファーストキャビンで設立した合弁会社による新ブランドです。
飛行機ではなく電車をモチーフにしたいというお話をJR西日本さんにいただき、試行錯誤をくりかえしましたがコンセプトである「コンパクト&ラグジュアリー」は変えることなく「ファーストキャビンステーション」としてブランドを新たに立ち上げました。
寝台列車のトワイライトエクスプレスを再現した客室を設置したり、実際に使用されていた列車のパーツをインテリアにするなど、随所に寝台列車を感じられる要素を散りばめています。
Q:会社が分社化されたり、今年2017年には株式会社JR西日本ファーストキャビンの立ち上げとどんどん発展されていますが、飛躍的に発展したきっかけを教えてください。
施設が10施設近くに増え実績、ノウハウがある程度積み上がってきたこと、あとは訪日外国人旅行者の急増、そして現在、オリンピックでホテル不足が騒がれおり、一気に短期間でホテルを作る風潮が背景にあることですね。
また、従来のイメージとは違うカプセルホテルやホステルが増えてきて、「カプセルホテルはこんなにいいもんなんだ」という世間の見る目も変わってきました。 そういったこれまでの実績から、大手企業様にも注目いただき、連携し開業を拡大できたことで、大きな飛躍となりました。
2017年の1月1日の時点では8施設の展開だったんですが、2017年1月から10月の間でさらに新しく8施設をオープン。10年かけてオープンした数が、1年足らずで同じことを行うという偉業を果たすことができました。
競合他社について、今後の展望
Q:競合他社さんについてはどう思われますか?
現在は新しいカプセルホテルを展開している会社さんはいっぱいありますが、競合でお客様を奪い合っているとは思っていません。
それぞれ各社が独自のコンセプトを掲げ、スタイリッシュな空間であったり、最新の技術を駆使した施設としたり、新たなイメージを打ち出していることで、簡易宿所のマーケットが拡大しておりますので、協力者だなと思っております。
そして、まだまだ拡大の余地がある市場だと思っています。
Q:今後の目標や展望ついて教えてください。海外進出などはありますか?
2022年までに国内で70、国外で30、計100施設展開を目標としています。年内は12施設ずつ開業予定。また、出店予定の3分の1はフランチャイズ化を目指しております。
私たちの作っているサービスは現状は宿泊施設ですが、コンパクトだけどお客様がラグジュアリーさを感じられ、人が快適に過ごせる空間は宿泊施設だけにはとどまらないと思うんです。ですので、食事や飲み物を楽しめるラウンジなど、その周辺領域にも事業を拡大したいと考えています。
また、今まではビジネスホテルがあるエリアで展開をしていましたが、今後はリゾート地や地方へも出店を広げようと検討しています。例えば、スキー場にファーストキャビンを開業など。
みんなが会話を楽しめるラウンジには暖炉があって、その暖炉を囲んで0時までは友人や家族とお酒を飲みながら会話を楽しむ。
そして、0時を過ぎたら個別のキャビンに戻って、休むといったスタイルもいいなと考えています。考えたら素敵だと思いませんか?
2008年の第一号店オープンから約10年、今年は大きな発展を遂げた「ファーストキャビン」。そして2022年までに100施設を展開していくという大きな目標を掲げている。創業時、真新しく新形態に挑んだ先駆者的役目は今も変わりなく、今後も簡易宿所市場にどんどん新しい文化を生み出していくだろう。
(HOTELIER編集部)