【連載/サクラクオリティ】『冬場の感染症第三波に対する徹底防御の必要性』

11月に入ってから、東京都を中心に各都市で新規感染者数が大幅に増加し、新型コロナウイルス感染症は新たなフェーズに入ったと言えます。
一部の報道では、市中の気の緩みも指摘されているようですが、むしろ今回の新型コロナウイルスは、気温の低い環境における生存期間が非常に長いこと、また湿度が低下するとエアロゾルの状態で空間中に長く存在する可能性があること等が強く影響しているように考えられます。

インフルエンザウイルスは、体外において概ね2時間から8時間生存しており、さらに乾燥や低温環境、その他凹凸がない表面上等の条件次第ではより長く生存できると言われていますが、新型コロナイルスはそれよりもより長く存在できます。
人の皮膚上では、9.04時間であり、A型インフルエンザウイルスが1.82時間と比較し約5倍長く、インフルエンザウイルスに比べて接触感染リスクが高いと報告されています。

2020年10月、豪連邦科学産業研究機構(CSIRO)によりますと、ガラスやビニール、ステンレススチール、紙幣、木綿の布の上等携帯電話の液晶画面や現金自動出入機(ATM)など身近なものに使われる素材を選び、新型コロナウイルスを含んだ人工の粘液を載せて、湿度50%、紫外線の影響がない暗室で存続時間を調べた結果、温度20度なら、木綿以外の表面には、いずれも28日後でもウイルスは残っていました(木綿では14日目までになくなった)。

温度30度の場合、紙幣では21日間残存するウイルスがわずかにあったが、ガラスやスチールは7日間、木綿やビニールは3日間、温度40度になると、木綿の場合は16時間未満、ガラス、スチール、紙幣は24時間、ビニールは48時間と報告されています。
また湿度に関しては、40%から60%の湿度環境ではエアロゾル状態でのウイルス量を最小限にできるとの報告も見られます(2020年8月、インド、ドイツからの報告)。オーストラリアにおける新規感染者数の動向を見ますと、冬場であった6月から8月に大幅に増加した後、春先である9月に収束しています。

以上から、日本においては、この11月から春先まで間が第三波となり、相当数の新規感染者数増が懸念されます。

来年にはワクチンの供給も期待されますが、それまでGoToトラベルキャンペーンの継続、春先から徐々に計画されるインバウンド市場の再開、さらにはオリンピック・パラリンピックを実現するためにも、今こそこれまでの経験を活かし、日本ならではの主眼や手法にたち一丸となってこの難局を乗り越えねばなりません。
新型コロナウイルス感染症については、夏場まで分からなかったことが今では多くのことが分かっています。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)について

コロナウイルスはこれまで2003年のSARS、2012年のMERSを含め7つめとなります。変異を繰り返す特徴を有し、現在欧米で多く見られるD614Gという変異したウイルスには強い感染力が報告されています。これまでのウイルスとは異なり、症状の発症までの間に最も強い感染力を有するという「ステルス性」がある他、上記のとおり環境に長く存在することが分かっています。口からの飛沫よりも便からのウイルス量が多く、トイレでのエアロゾル感染に注意が求められます。ウイルスの構造では外側の膜には脂質構造が見られ(エンベロープ(E)タンパク質)、その結果ノロウイルスでは効きにくいと言われるエタノール消毒で十分消毒が可能です(エタノール濃度70%~80%が望ましい。)。
新型コロナウイルスの4つの感染機構(2020年11月時点)

新型コロナウイルスは単独で増幅できません。宿主細胞を複製工場として利用します。その感染機構には、現在は4つの感染機構が報告されています。
タンパク質を分割する酵素(TMPRSS2と言う。)によりウイルスの外側にある細胞侵入用のタンパク質(スパイク(S)タンパク質)を分割し、分割後に、脂質の細胞侵入口が現れます。その脂質の侵入口と宿主細胞の脂質の外膜とが融合してウイルスの遺伝子(RNA)を細胞内に感染させます。
タンパク質を分割する酵素が無い環境では、食作用と言われる作用により、宿主細胞の中に小さな気泡のような形でウイルス全体が取り込まれます(その空間をエンドゾームと言う。)。エンドゾーム内には別のタンパク質分解酵素が存在しており、その酵素により上記①と同じ侵入を実現させます。
さらに、SARSで見られた別のタンパク質分解酵素も新型コロナウイルスで機能しており(セリンプロテアーゼフーリンと言う。)、①で記載の酵素が少ない環境においても、①の侵入を誘導する仕組みを備えています。
また、宿主細胞側の受け口(ACE2受容体という。)は1つではなく、神経細胞に見られる受容体(NP受容体と言う。)にも結合することが判明しています(後遺症で記憶障害が報告されていることとも関係していると報告されています。)。

以上のようにこれまでのウイルスとは異なり、より多くの感染機構を有しているのです。

新型コロナウイルスの3つの感染経路

上記のような特性を有する新型コロナウイルスの感染経路には、飛沫感染、2次感染である接触感染及びエアロゾル感染という3つの感染経路があると言われています。
夏場では、体外環境においてインフルエンザウイルス等よりは長いものの2~3日の存在時間であり、接触感染対策である消毒も重要であったものの、感染としては約90%が飛沫感染と言われました。
気温が低下する冬場においては、体外環境においても1カ月以上ウイルスが失活せず存在している可能性があり、飛沫感染対策の徹底の他、消毒による接触感染の徹底防御が求められます。今回の新型コロナウイルスは、体外環境においても他のウイルスより長く存在でき、且つ環境が乾燥すれば0.005mm前後のエアロゾル状態として空間浮遊する可能性が高まります。これまでの飛沫感染対策も重要であるものの、さらにこれまで以上に接触感染リスク及びエアロゾル感染リスクを低下する取り組みが求められます。

つまり3感染経路の徹底対策が求められるのです。弊会では2月以降、感染症対策検討委員会を複数の専門家の皆様とご一緒に発足し、今年の5月以降全国各地の宿泊施設の感染症対策をサポートして参りました。それらの中で、この冬場、特に求められるであろう視点を前回に引き続きご紹介したいと思います。
まず、そもそもですが、宿泊施設に求められる品質を追求する視点に、「安全性」「安心感」が挙げられます。特に安心感については、清潔感から顧客配慮まで幅広く関係しており、レベルの高い安心感を追及するのであれば、清潔感、快適性、機能性の他、顧客に寄り添ったハード、ソフト、ヒューマンという接遇レベルの高さが求められます。それら宿泊施設の品質のベースに求められる視点と、今回の感染症対策で求められる視点は軌を一としています。感染症対策の構築も、顧客にとっての安全性確保の他、安心感に繋がります。この冬場特にレベルの高い安心感の提供が求められ、そのためには、顧客に寄り添う顧客視点で感染症対策の徹底が求められるのです。これまで拝見してきた感染症対策の中で散見された問題点を改めて整理しますと以下の通りとなります。
 
▽エントランスの消毒液は適切な濃度を使用し、且つ両手を丁寧に消毒できるようバゲージラックをセットで配置しているでしょうか?
 
▽消毒液で自動噴霧器の場合は、お子様が触れて目にはいるようなことがないよう配慮されているでしょうか?
 
▽接触感染対策であるテーブルの消毒では、適切な濃度(エタノール濃度70%~80%程度)が使用されているでしょうか?
 
▽レストラン等のテーブル等の消毒では、往復拭きではなく、一方向に拭き上げできているでしょうか?※往復拭きでは、少しでも残ったウイルスが元の場所に戻り、且つ広範囲に広がってしまう恐れがあります。
 
▽レストラン等のテーブル等の消毒では、テーブルの側面までケアができているでしょうか?
 
▽レストラン等のテーブル等の消毒では、事前に汚れを取った後に実施できているでしょうか?
 
▽レストランでのナフキンやカスターセット、お皿やお箸、シルバーウェア等の提供は、個々の顧客に分けて提供されているでしょうか?▽レストランでは換気が徹底されているでしょうか?
 
▽レストラン等で列が生じることがないようソーシャルディスタンスが守られているでしょうか?
 
▽共用トイレでは、トイレエチケット(カバーを閉じて流すこと)の協力を要請できているでしょうか?※今回のウイルスが体外に排出される場合、口からの飛沫よりも、便からの排出量の方が多いと報告されており、且つ陰性化した後も長く排便に確認されています。
 
▽共用トイレの換気は徹底されているでしょうか?
 
▽マスクは不織布マスクの活用をスタッフ間で徹底できているでしょうか?
 
▽エレベーターホール及びエレベーター内のボタンは定期的に消毒できているでしょうか?
 
▽客室ドアの消毒は都度消毒できているでしょうか?
 
▽客室内では、これまでウイルスが多く認められてきました接触頻度の高い、リモコンボタン、各種ボタンの他、テーブル上、ボールペン、椅子の取っ手、ベーシン、トイレレバーや各種ボタン等の消毒ができているでしょうか?
 
▽シーツの取り換え時に特に枕で汚れが目立つ場合は中身の洗濯もできているでしょうか?
 
▽上記客室内の消毒では、事前に汚れを取った後に、適切な濃度で一方拭きで行われているでしょうか?▽フロントで使用するボールペンは定期的に、あるいはできればこの冬場については使用の都度消毒ができているでしょうか?
 
▽この冬場が重要局面であることを十分に理解し、リスクの高い場所には、顧客が自由に自身で消毒できるよう消毒セットが設置されているでしょうか?
 
▽館内の出入り口が複数ある場合には出口用扉と入り口用扉を分け、混線を防いでいるでしょうか?
 
▽バックヤードでは、換気の徹底、整理整頓、触ったスタッフが自身で消毒を行うこと等ができているでしょうか?
 
▽大浴場、スパ、エステのタオルは積み上げることなく、小分けで提供できているでしょうか?※手洗い場の整髪料や歯磨きセット等も求めに応じて提供し自由に取れるようなセッティングをしないこと。
 
▽感染症を想定した定期訓練ができているでしょうか?▽大浴場、サウナでは、飛沫感染対策として入場制限はできているでしょうか?▽エレベーター内に入場制限に繋がる足跡ステッカーが設置されているでしょうか?
 
▽フロント前やレストラン入り口の混雑を避けるよう、足跡ステッカーや予約制を実施できているでしょうか?
 
▽売店では密回避の他、入り口で手指消毒ができるよう配慮されているでしょうか?
 
▽スタッフの手指消毒は適切に行っているでしょうか?※手のひらにくぼみを作って反対側の指先をまず浸し消毒します。残った消毒を手のひら全体に良くのばし、さらに逆の手にもくぼみをつくって同じ動作を反対側の手も繰り返します。最後は手指で終わる必要があり、手首は触らないこと。
 
▽レストランやバー等では、BGMの音量を落とす配慮ができているでしょうか?
 
▽喫煙所では人数制限の他、足跡ステッカーが設置されているでしょうか?
自身が注視している場所から別の場所へ一時的に移動するようなシーンでは気の緩みが生じます。特に喫煙所や共用トイレ、売店等では十分に感染症対策に飛沫感染対策として密回避、接触感染対策として消毒、エアロゾル感染として換気の徹底が望まれます。

来年の春先までは気温及び湿度が低い環境であり、3感染経路の徹底防御が求められます。ワクチン開発も進んでいますが、今こそこれまでの取り組みを集大成し、顧客視点をもって顧客の安全と高いレベルの安心感を提供すべき時期となります。

今後も、感染症対策の継続が求められるでしょう。感染症対策には、最低限実施すべき事項をレベル1、感染者数が増加している環境でさらに行うべき事項をレベル2、高度な顧客配慮で求められるであろう事項をレベル3と考えると求められる感染症対策にはレベル格差を設けることができます。

おそらく来年夏場以降は最低限実施すべき内容、つまりレベル1感染対策でよいかもしれませんが、今は違います。
者数が増加する中求められるような高度な顧客視点や顧客配慮を有するレベル2以上の感染対策が望まれます。

今こそ、宿泊市場だけではなく、交通機関、その他アミューズメント施設や売店、各種観光施設すべての観光業界が一丸となってレベル2以上の感染症対策の実施が喫緊の課題となっているのです。
また、それらの取り組みは、顧客接点を形成します。
つまり顧客との間に強固な信頼関係の構築にも繋がるということを十分にご理解いただき、徹底防御を追及していただければ幸甚です。

【著者情報】
北村 剛史
・㈱サクラクオリティマネジメント 代表取締役
・㈱日本ホテルアプレイザル 代表取締役
・一般社団法人観光品質認証協会 統括理事
・不動産鑑定士、MAI(米国不動産鑑定士)、FRICS(英国不動産鑑定士)、
・CRE(米国不動産カウンセラー)

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